ラスト・クリスマス Part4〈H−side〉

携帯がポケットのなかで震えた。取り出して、片手で開く。
「着信かよ、めんどくせえな」
画面の光に目を細めて、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「あ、日向さん?」
「俺以外に誰が出るってんだよ」
「若島津ですけど」
鳥の鳴き声が流れて、信号が青に変わる。早足の波に流されて歩いていると、でかい男が突っ立っていた。何人も舌打ちをしながら男の横を通り抜けてゆく。男はまるで気にしないで、携帯に向かって大声を張り上げていた。聞き覚えのある声に、思わず男の前に回り込む。
「じつは、日向さんに紹介したいやつが」
まだ気が付かねえのかよこいつ。
「街中で人の名前大声で呼んでんじゃねえ」
「え…わっ」
若島津は人の顔を見て飛び上がった。
「…なんでここに?」
まだ頬を引きつらせている。
「スーパーに買い出し」
俺が言うなり、若島津からすさまじい音が出た。どうやらこいつの腹は、巨大な虫を飼っているらしい。
「スーパーに反応すんなよスーパーに。なんか食ったのか?」
「…つまみぐらいは」
若島津の腹の虫がもう一度暴れた。
「荷物係やるってんだったら、うちで飯食ってっていいぜ」
両手に持っていた袋を押しつけると、若島津は何度も頷いた。