ラスト・クリスマス p-2〈W-side〉


酔って、吐いて、それから
酔って、吐いて、それから

何度も繰り返し、指折り数えて。
まるでドラマの記憶喪失の人みたいに頭痛に妨げられて、それから、の先がどうしても思い出せないことに、俺は呆然としていた。
「目ぇ覚めたかよ」
ぐるりと首を横に回すと、首にかけたタオルでがしがしと髪を拭きながら、迫力ある三白眼の男が立っていた。肌は浅黒く、背は俺よりは小さい。なんとなく、見覚えがあるようなないような。湯上がりらしいその人にくぎづけになりながら、シャワーの音なんか聞こえてたっけ、とぼんやり考えた。
「なにジロジロみてんだよ、入ってきたいなら入ってくりゃいいだろ」
「いや、別に入ってきたいわけじゃ」
言いかけて急に体が少しの気怠さを訴え始める。
「…入ってきたいです」
ベッドから出ようとしたら、頭を拭き終わってそのままにしているその人が大きく舌打ちをした。なんだよ、と言おうとしたがその前に肩がぶるっと震え、勢い任せにくしゃみを連発した。
「さっみー…」
「肩出しっぱなしにしてたからだろ」
肩に触れた手の温かさに驚く。その手に目をやると自分の肩が裸で、自分が何も着ていないことに気付いた。
「…あれ」
手の甲から腕、肩、と視線を上げる。男が、不機嫌そうに結んだ唇をほどかずに、雑な仕草で浅黒い首筋を指さした。とんとん、と叩かれたそこは、あかく鬱血している。
「…え、」
半信半疑で自分を指さし、男を見上げる。きっぱりと大きく頷かれて、
「えええっ」
壁の向こうにまで聞こえそうな大声で、叫ばずにはいられなかった。