飲み過ぎた。
そう思った時にはもう遅かった。金曜日恒例の、上司との飲みに付き合わされた俺は、こみ上げてくる吐き気と必死に闘いながら、酒の味と苦い後悔を舌の上で転がし続けていた。飲み過ぎにも程があるだろ、俺。明日も休日出勤だっつーのに・・・。
「お前、テキーラ飲み過ぎだぞ。そろそろトイレに行っテキーラ?」
営業部取締役、若林源三の、いつも通りのダジャレが俺の悪酔いにトドメを刺した。若林とは一応同い年だが、この会社に転職したての俺とは段違いに、こいつの方がランクは高い。
「・・・失礼、します」
「おい大丈夫か?若島津?」
同僚の松山光がぐらつく体を支えてくれた。
「別に大丈夫だぞ、一人で・・」
「あいつが出てけって目してるんだよ」
松山の指さす方向には若林。その隣には、若林の意中の秘書、岬が座っている。
「なるほど」
「気を付けて行っテキーラ〜」
まだ言うかあのオヤジ・・。上機嫌にハンカチまで振ってくる若林に手刀でもお見舞いしようと思ったが、その途端に視界がぐらついたのでやめた。
吐くだけ吐いてもまだ気分は悪いままだった。俺を待っていたらしい松山が、大丈夫かと聞いてくる。
「まあ一応もうちょっとここにいた方がいいよな」
松山がそう言いかけたとき、店から猛ダッシュで出てゆく人影が見えた。
「・・岬?おい、岬!」
松山は担いでいた俺をぶん投げて、岬の後を追っていった。まだふらついていた俺は体を支えきれずに、がん、と壁に頭をぶつけた。
思いっきり鈍い衝撃を最後に、俺の記憶は途絶えた。
>>